学園(序)
「吟ネエ、帰ろうか?」

金に限度があるので、これ以上遊ぶことは出来ない。

「丞、お前は変わらないアルな」

吟ネエがどういう意味で聞いたのかはわからない。

でも、何の意味もなく言うってことはないとは思う。

「変わったよ。考え方とか色々」

「そうアルか」

「吟ネエは変わったね」

記憶の中にある吟ネエは色んな人と体を重ね続けるようなことがなかった。

幼少時代っていうのもあったけど、ここまでするのは何でだろうな。

「元々がこんな人間だったアル」

吟ネエと話すと、何でいつも胸が痛くなるんだろう。

「きっと、気付いてないだけだよ」

「何にアル?」

「心って奴さ」

「またアルか」

「今日のでわかったよ。吟ネエにはちゃんと込める事の出来る心があるんだ。何もないわけじゃなかった」

目に見えるモノだけを信じるからこそ、見えないモノに対して鈍感になっているだけなんだ。

鈍感になっているから、相手の気持ちや自分の気持ちの変化に気付き難いんだろう。

でも、キスだけでも声に変化があったことは確かだ。

それは、気持ちが高ぶっていた証拠ではないだろうか?

吟ネエは俺の顔を見たまま固まっている。

自分が思っていた以上に楽しんでいたことに気付いてないのか?

それとも、自分の認めているモノ以外で楽しいことがあるって事を認めるのが嫌だとか?

後は、見えない心を知らず知らずの内に前に出していた事に気付いたとか?

「ホラ、立ち止まってたら、通行人の邪魔になるよ」

今度は腕ではなく吟ネエの手を握る。

「お前の手、すべすべしてるアル」

「そこは暖かいか冷たいのどっちかで言って欲しかったぞ」

「ぬるいアル」

絶対に俺の言ったことにはタダでは従おうとはしないな。

「吟ネエの手は暖かいよ。何か、握ってるだけでぽかぽかする」
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