学園(序)
リビングの机の上には肉じゃがとご飯と味噌汁が置かれてある。

味噌汁は玉ねぎと豆腐と油揚げという、一番好きな具が揃っていた。

「渚さん、俺、感動しました!」

「好きっていうのは知ってましたからね。喜んでくれて何よりです」

具だけで喜ぶって子供かとも思ったけど、本当に好きなんだから仕方ない。

「男を誘惑するテクも身に付けるなんて、抜け目ないアル」

「吟ネエ、渚さんがそんな目的があるわけないだろ」

「案外あるかもしれませんよ?」

「え?」

それが本当ならドキドキしちゃうぜ。

渚さん、世界三大美女に入るくらい美人だからな。

「なんて、冗談ですよ」

「そうですよねえ」

男心にはショックな出来事だった。

でも、のめりこむようなほど本気にはしていない。

相手は人妻ですし、俺には気になる人達もいるわけだからな。

「じゃあ、いただきます」

TVはついてるが、見てるのは吟ネエぐらいで俺は集中して食べる。

自分の母親と渚さんの肉じゃがの味は違っている。

母親の肉じゃがはとにかく濃い。

息子を高血圧にするつもりかってくらいだ。

でも、渚さんのは最近は丁度いいくらいになってきている。

最初の頃は、薄味すぎて素材の味しかしなかったからな。

「渚さん、吟ネエに料理を教えてもらったって本当ですか?」

「ええ、吟さんには世話になったんですよ」

「へ、へえ」

噂が本当だったとは。

肉じゃがに手を伸ばそうとしたが、掴んだ感触がない。

よく見ると、茶碗の中には何も入っていない。

「疑った罰アル」

「す、すいません」

いつもグウタラしてるだけなのに信じろっていうのが難しいよな。

恐るべき天才だぜ。
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