ラブ・スーパーノヴァ
「そりゃ、もう2、3発殴ってやりゃ良かったのに。」

家に帰ってからキヨに話した返事だった。
二人で倫が買ってきたたこ焼きをつつく。

「格好からして金持ちのボンボンって感じだったなあ。時計もいいやつしてたし。」

「やだやだ、金持ちはなんでも金さえあれば解決できると思ってんだから。」

キヨは心底嫌そうな顔をした。

きょうはお気に入りのピンクのネグリジェを着ている。もう80過ぎたというのに長い髪を栗色に染めており、赤い花柄の簪で髪をゆるくたばねている。

そして年代モノの、ヘップバーンの映画でも使われてた、黒く長い煙管でタバコを吸う。

倫はキヨに話してすっかり落ち着きを取り戻していた。

「それにしても、お前さんもそんなバイトしなくったっていいんだよ。1週間すごせるくらいの小遣いやれんだから。」

倫はううんと首を振った。

「いいの。キヨちゃんの葬式代使いたくないもん。死んだ時くらい派手にしたいじゃん。キヨちゃんの大好きな赤い薔薇で祭壇飾ってあげるからね!」

いつもこんな話をして二人で笑うのだが、倫はキヨが死んだら自分はきっとまともに生きていけないと思っていた。

物心ついたときから二人で生きてきた。親がいなくても寂しいと思ったことはなかった。
キヨが全力で愛してくれていたからだ。

倫がいじめられた時は、いじめた子の家まで言って親に延々と説教したり、運動会や日曜参観には必ず参加してくれた。

今でも一緒にお風呂に入るし、布団も隣に並べて寝る。

「いいねぇ。お経の代わりにストーンズかけとくれよ。それから、線香なんてのもやめてタバコにしとくれよ。薔薇にタバコにストーンズ、最高の葬式だねえ。」

倫はこの派手好きで芯の強い祖母が大好きだった。
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