破   壊
 狭い独房の中で、私は返事の来る見込みなどない手紙を書いていた。

 もう返事は諦めていた。

 ただ、書いているだけで良かったのだ。

 季節は秋を通り過ぎ、冬を迎えようとしていた。

 セーターが欲しい……

 あの子もそう思っているのかしら。

 前よりも、数センチ短くなった襟足に、冷たい空気が当たる。

 うっ、と身を竦め、書いていた手を休める。

 寒さでかじかんで来た指先を摩り、再び便箋にペンを走らせる。

 私の傍らには、戻らされた私の手紙の山。

 きっとこの手紙も読んで貰えない……

 それでも書いた。

 やっと書き終えた便箋の最後に、あの子の名前を記す。


     ママより


 亮太へ





   【完】





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