引き金引いてサヨウナラ
「……うん。なんかお父さんの背中、小さくなったなって思って」
そう呟いた美菜に、柚江は ふっ、と息を吐いた。
「美菜が大きくなったのよ」
美菜はコップをいじりながら、そうじゃなくて、と言葉を続ける。
柚江は夕飯の支度に取り掛かりながら、美菜に向かって穏やかに話し出した。
「そうねぇ。お父さんも年を重ねて、毎日毎日大変なのよ?
会社でも家庭でも、それ相応の責任がついてまわるからね。
テレビばっかり見てるから目も疲れるし、翌朝ショボショボしてつらそうだし。
体はキツいし、娘はキツいし」
本当に大変、と茶化すように言って、美菜に皿を出すよう頼む。
「お母さんも覚えがあるから何も言わないけど。
お父さんだっていつまでも若くないのよ?
年をとれば、ちょっとしたことで物悲しい気分にもなるんだからね」
手際良く野菜を切りながら言う柚江に、美菜は「うん」と呟く。
美菜は、母親が父親の体を思ってしていた行動に気付かず、愛がないと思っていたことを恥じた。
「……何か手伝うよ」
美菜の言葉に柚江は振り返り、小さく微笑んだ。