KEEP OUT!!

 カラン、と聞き慣れたドアベルの音に安堵感を覚えながら店に滑り込む。

 1歩踏み入ればたちまち鼻をくすぐる珈琲のほの苦い香り。

「いらっしゃいま──紗智?」

 出迎えてくれた第一声は、草にぃだった。

「えへへ、きちゃった……」

「きちゃった、って、おまえ、学校は?」

「あ、うん。ちょっと」

「ふぅん? ま、いいや。ちょうど暇な時間だしな」

 いわれて店内を見渡すと、確かにお客さんが誰もいない。

 平日の昼間でオマケにこの雨じゃな、とグラスを磨きながら肩をすくめる草にぃ。

 なるほど。

 と、

「で、お客様? ご注文は何になさいますか?」

「え?」

 とりあえずカウンターに座ったわたしに差し出されるメニュー表。

「あ、うん……じゃぁ、アップルティ、いい?」

「かしこまりました」

 店内にゆったりと流れるクラシカルジャズ。

 少し抑え目のボリュームが微かに響く雨音と重なって心地いい。

 年季の入ったビターカラーの床やテーブル、カウンターの色合いにそれがとても良く合う。

「はい。おまっとさん」

「ん……」

 甘酸っぱい香り。

 ここのフレーバーティは年中ホット。

 一度叔父さんに「アイスで出さないの?」と聞いたら「コイツはまず第一に香りを楽しむものだからな」といわれた。

 カップを両手で包み込んで口に運ぶ。

 爽やかな林檎の香りが舌先に触れたかと思うと、喉に通す前に香りだけ先に鼻の奥にタッチして、きゅっ、と胸を締め付けた。

 これにはシロップじゃなく、アカシアのハチミツが使われていて、それがとても良く合う。

 とろり、とした甘さをまぶたを閉じてしばらく堪能。

 その間、草にぃは黙ってグラスを磨いていた。

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