先輩と私

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私は、リビングに入ると自分の家のようにソファに座っている先輩。テレビを見ている。

「先輩」
「何?」

先輩は、こちらを振り向かない。二人っきりだとこうだ。外だと誰かの目を気にしてくれるけど、家の中だと私の顔も見ようとしない。

「好きです」
「ふーん」

私は、台所に向かって、夕飯の準備を始める。先輩がいるので比較的、がっつりしたものを作る。肉を甘く焼いて、ご飯の上に乗せ、その上に切ったネギを乗せる。野菜炒めを作って、豆腐を切る。味噌汁は大根と玉ねぎと人参を入れる。できる限り早く作らねば、先輩が不機嫌になりそうだ。三つのコンロを総動員して、早急に作った。

作り終えたとき先輩はつまらなそうにテレビを見ていた。
リビングの机の上に料理を並べる。先輩はこちらも見ずに食べ始める。私はお茶を用意して、ようやく、自分も座って食べ出す。

会話がない。これは帰り道のあの柔らかな沈黙ではなかった。しかし、私はしゃべれなかった。そうなると、あまりしゃべる方でない先輩は、尚更だ。
空気が重い。何故か、先輩は人目が確実に無いところに来ると意地悪になる。

そっと、先輩の方を見ると目があった。バッと、目をそらす。ああ、失礼な事した。顔が赤くなっていくのが分かる。熱い。
もう一度先輩の方を見ると、先輩も少し赤い。

「口、切ったりしてないか?」
びっくりして、先輩の方を見ると、先輩の顔が赤い。可愛いくらい赤い。さっきの事が気になってるらしい。

「大丈夫です」

私が笑いかけると先輩はホッとした顔になった。
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