先輩と私

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夕飯が終わる。しかし、私はなかなか片付けに動けなかった。片付けを始めたら、先輩はきっと帰ってしまう。私は殆ど内容の入って来ないテレビ番組に集中しているように装って、片付けを先延ばしにする。

CMに入り、そっと先輩の方を見る。先輩は携帯をいじっていたようだった。見つめていると、先輩が携帯から顔を上げた。目が合う。

「あ〜、俺帰るわ」

時計を見ると8時30分を過ぎた所だった。まだ、大丈夫じゃないかと思ったが、先輩は部活が有ったことを考えると疲れているのだろう。
立ち上がり玄関に向かう先輩の後に続く。
靴を履いている先輩の姿を見ながら何を喋れば良いかまた分からない。付き合いが長いのに、なんでこんなに話すことがないんだろ。哀しくなってきた。

先輩がドアノブに手をかけても、無言の空間が続く。先輩がもっと喋ってくれる人だったら良いのに、なんて勝手な事を考えながら、私も先輩を送るために靴を履く。

玄関の外に出る。先輩の後ろ姿が見える。先輩がこっちを振り返る。

「じゃ」
「あ、はい。また明日」

そのまま、先輩は家の方に歩き出す。私は先輩の姿が見えなくなるまで見送っていた。
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