ケイカ -桂花-
一回見てみたかったんだ、愛人、ってやつを。

リビングのドアの手前で止まって、耳をすます。

内容までは分からないが、お母さんが何かしゃべっている。

オヤジの声も愛人の声も聞こえてこない。

ふーん、もっと修羅場かと思ったら、こんなもんなんだ。

お母さんはいつもと同じ感じの、ゆっくりとした口調で、興奮した感じも無い。

近所の人と世間話をしているみたいで、思わず「ただいまー」とドアを開けてしまいそうになる。

首をうーんと斜めに傾けて、ドアのガラスになっている所から中を覗いた。

金髪の女がソファーに座っている。

お母さんが毎日磨き上げている真っ白の革張りのソファーに。

あれが、愛人、か。
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