ケイカ -桂花-
「私は、宮崎が話しかけてくれて嬉しかったよ。宮崎といて楽しかった。今も一緒にいたいって思ってる」

しばらく沈黙があった。

「好きなんて何回も言われた。その度に、よしっ、って思った、これで1人ゲットしたって。だから俺にとって恋愛なんて勧誘の中の一部でしかなかった。
そういうもんだって疑った事もなかった。

でも、桂が『好き』だって言ってくれた時、俺初めて疑った。初めて親の事恨んだし、クラスの普通の奴らを羨ましいって思った。
俺が俺でなかったら、って。
あれ、俺、何言ってんだか分かんないな」

照れ隠しみたいに、ハハっと笑って目を伏せた。

ううん、分かったよ。

伝わってた。

私の言葉はちゃんと宮崎には伝わってたんだ。

それだけで十分救われた気がするよ。



それから私達は別れを惜しむ様に、会話のないまましばらく一緒にいて、「じゃあ」と言い合って別れた。

いつかみたいにすごい速さで走り去り、どんどん小さくなる宮崎の背中を見ながら思う。

とうとう最後までタロウって呼べなかったな。

頬には熱い涙がつたっていった。
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