ケイカ -桂花-
ケイと話しながら、無意識に歩いていたらしい。

知らない場所にいた。

そして、目の前には-----


キンモクセイ。


オレンジの小さな花が無数についた1本の木が、住宅街の片隅に立っていた。

むせ返るほどの濃厚な香りを惜しげもなく振りまきながら。

「やっぱ、トイレの匂いだ・・」

つぶやきながら、近づき、そっとその幹に触れた。

近づくと、さらに強くなった甘い匂いが鼻から体中へと行き渡る。

ケイの匂い。

私が世界で一番好きな匂い。

ケイ、ケイ・・・。

木にすがり付く様にして泣いた。

後から後から流れ出る涙を拭いもせず、泣き続けた。
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