ジェネシス(創世記)
イグは木と木の摩擦による、「火おこし器」で木片を燃やし、アダの身体を温めた。
枯れ草を敷いて、それを布団にした。

やわらかい肉や、木の実をすりつぶした食事を与えた。湧き水を温めて、飲ませたりもした。排泄物の後始末もした。

 分厚い肉を額の上にのせては、熱を下げてあげた。肉のかたまりが熱を奪ってくれるのだ。それぐらいのことしか、イグにはできなかった。

 深夜、イグは手と手を合わせ、禁断の山に向かって祈り続けた。自分が神聖な場所を犯した「原罪」の深さに気づき、「主」に許しを求めた。

祈りを捧げた。数日後、アダは奇跡的にも回復した。イグは喜びいさんで、アダを力強く抱き締めるのであった。

 「主」の怒りは、時とともに動きはじめていた。アダとイグが汚した、聖地の近くにある休火山が黒い噴煙を上げだした。噴火である。

大小の火炎弾が雨のごとく降り注いだ。火砕流が一瞬にして流れ、森の大半を襲った。火口からは溶岩が流れ、森林が燃え上がった。火口から吹き荒れる黒煙が、天空の一面を覆った。火山灰が降り続いた。

 部落の者たちは逃げ惑い、みんな散り散りになった。アダ・イグ・アーベも逃げた。ところが年老いたアーベは、火炎弾の直撃を受け全身が炎に包まれてしまった。

悲痛な叫びを上げて、地面を転げ回った。二人は土を掛け、木の葉を打ち付けては、アーベを包みこむ火を消した。アーベは重度の火傷を負い、弱々しい声でアダに語りかけた。

「アダよ、天を見よ。天がきっと我らを導いてくれるであろう」
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