ジェネシス(創世記)
そう言い残して、アーベは息を引き取った。二人は悲しみにくれている暇はない、アーベの遺体を埋葬するだけの余裕はない。今は、「主」の怒りから逃げるしかないのだ。
 

遠く離れた丘の上、生き残った部族民たちは、茫然と立ち尽くしていた。部落は火の海に包まれて壊滅した。部族会議の結果、二人を追放する決断を下した。処刑されないだけでも、幸いであろう。

 二人は部落を離れ、森や山や海岸沿いをさまよった。アダとイグは、二人で手を取り合って生きていくしか道はないようだ。二人が居住していたその部落の名は、「エダム(楽園)」と呼ばれていた。

 アダはあの「不思議な石」を拾ってから、頭脳が発達したようである。ひらめき、創意工夫、発想がだれよりも数段に優れていた。火を失った二人は、飢えと寒さに震えた。獲物を捕らえても、生の肉を食べていた。けれども、その毛皮で衣類を作った。

 ある日、アダは石を投げ付けた。その石が岩にぶつかって火花を散らしたことから、「火」を発見した。

「フリント」や「メノウ」という宝飾用の石に、「鉄鉱石」をすりあわせると火花が発する。いわゆる、「火打ち石」を作りだした。当時としては、大変な発見である。二人は「火」を作ったことで、他の部族から迎え入れられるようになった。

 アダはアーベの言い付けを守って夜空を仰ぎ、見続けてきた。長年観察することで、一定の法則を見いだした。一二個の惑星から一二ヶ月を導き出し、「太陽暦」の基礎を築いた。
 
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