ジェネシス(創世記)
私は、何を語っているのだ? 超古代文明だと。現在のこの貧しい農耕文化において、これ以上の文明が存在するはずがない。

幻の大陸なんて、理論的に考察しても一晩で沈むわけがない。また、戯言を孫たちに話している。

 最近、夜も昼も関係なく、一人で勝手に出歩いていることが多々あった。しかも、どこをどう歩いてこんな場所に来たのかも、覚えていない。

足の動きは、頭脳と意識と関係なく行動している。たまに、恥ずかしながら失禁することもあった。

 ブドウ酒を飲み過ぎて、裸で外をふらついたこともあった。三男のガムに見つけられなかったら、路上に倒れて凍死していたかもしれない。

翌日、ガムが長男のザムと次男のベーテに問い詰められていた。天幕の中で、実の父親を犯すほど、ガムは好色だと思われたようだ。

私は黙ってニタニタと笑いながら、三人のケンカを見ていた。待てよ、私に息子がいたのか。それすら思い出せない。あの三人は、誰だ?

 私の頭の中が、おかしい。身体に異変が起きている。息子たちは私のことを、「ボケ」と呼んだ。それが私の、本当の氏名だっただろうか。自分の名前すら、覚えていない。

 「失われた大陸」、そんな古代文明なんか存在してたまるか。こんなウソ偽りの洪水物語を、孫たちに伝授するわけにはいかない。

それでも私が生きた証として、ご先祖様のことを何か語り伝えなければならない。私はそれを「聖書」と呼ぼう。「主」よ、私を祝福して下さい。安らかに私を、天の門から昇らせて下さい。

「私があなたに語った言葉を、一つ残らず巻物に記しなさい(エレミヤ書)」

「私はあなたたちと、そして後に続く子孫たちとの間に契約を立てる(創世記)」

●第三章、「約束の大地」へと続く。
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