【天使の片翼】
だが、少年は、慣れた様子で、すぐさまファラを諌めた。
「恐れ入りますが、もうすぐホウト国との国境に差し掛かります。
あちらの国には、女性が騎乗する習慣は、ございません。
カナン国の姫君が、馬に乗って現れたりすれば、
お相手の王子様が、卒倒なさるかもしれませんよ」
カナン国を出て、3日間は、馬に乗る事を大目に見た。
しかし、まもなく、ホウト国領に入るのだ。
王城までは、まだ距離があるとはいえ、すでに外交は、始まっているといえる。
「あら、いいじゃない。
そんなくだらない習慣なんて、変えてしまえばいいのよ。
お父様だっていつもおっしゃってるわ。
続いているものが、必ずしも最良とは言えない。
改革が必要であれば、信念を持って、そうするべきだって。
ほんと、ソランは、頭が固いんだから!」
言われなれたその台詞に。
ソランと呼ばれた少年は、いつもと同じ事を、心の中でつぶやいた。