【天使の片翼】
明るい王の執務室は、一気に暗雲が立ち込め、今にも雷が落ちそうだ。
王の警備をしている男は、自分が口を滑らせたせいで、とんでもないことになりそうだと、冷や汗が流れ落ちる。
「誰から聞いたのでも、かまいません。本当なのですか?」
ファラの口調は、厳しかったが、その瞳に、一瞬不安そうな色が差したのを、父王は見逃さなかった。
「マーズレン。悪いが、二人で話がしたい。席をはずしてくれ」
王は、警備をしていた男--マーズレンにそう言うと、立ち上がり、そっと娘の肩を抱き寄せる。
マーズレンは、会釈すると、忍び足で部屋を去った。
「本当・・・なのね?」
大好きな父が、自分の頭を優しく撫でてくれるのを感じながら、ファラは、声の音を落とす。
自分は、このカナン国の第二王女だ。
さっきは、当人に内緒で話を進めるなど、信じられないと啖呵を切ったが。
本当は、わかっている。
国を守るためには、民を助けるためには、
そして何より、自分を育ててくれた両親の恩に報いるために、自分が何をすべきか。
ホウト国は、カナンの南西に位置する大国で、商業の盛んな国だ。
多くの国と国境を接しているカナンにとって、外交が政事の要となる。
父の教育で、政事や外交の知識を身につけていたファラは、王の腕の中で、軽くため息をついた。