【天使の片翼】
雲が太陽を隠したのだろうか。ふいに、室内が、ふっと暗くなった。
まるで、ファラのため息が招いたかのように。
「まだ、決まったわけではない」
王は、ファラをなだめるように、何度も彼女の髪をすく。
・・参ったな。
そんなに悲しそうな顔をされては、行かせることができなくなるではないか。
王は、始める前から、自分の計画が頓挫しそうな予感がした。
その原因はといえば、全て娘に甘い、自分自身にあるのだが・・・。
手元に置けば、どうしても甘やかしてしまう。
人は、たくさんの人や物と出会い、そして、経験を積まなくては、ろくな大人にならない。
そう思って、花嫁修業にかこつけ、人生修行をさせるつもりだったのだが。
やはり、やめるべきなのかもしれない。
頼るものもない他国へ、突然行かせるようなことなど。
そう考え直しかけたとき、自分の胸の中に顔をうずめている娘が、突然顔をあげて自分を見上げた。