飛べないカラスたち
忘れもしない穏やかな声に、複雑な感情が溢れる。
『あぁ、よかった…お母さんは?』
「え、仕事…」
『そうでしたか…すみません、カイン。一人にさせてしまって…』
受話器から伝わる声はあの頃と同じく優しくて、そして残酷だった。
何故今になって掛けてきたのか。
何故今まで掛けてくれなかったのか。
ルックはその場に座って、久しぶりに聞こえたレイの声に耳を傾けていた。
『ちゃんと学校に行ってますか?ご飯はもう食べたんですか?』
「…学校は、うん…とりあえず。ご飯はまだ…。後で買ってくる」
『お母さんは今日は遅いんですか?』
「帰ってきてないよ、ずっと。…仕事みたい」
受話器から嘆きの声が聞こえた。
部屋に一人で膝を抱えているルックでも想像したのだろう、レイは「ごめんなさい」と呟いた。
だが、レイの想像はそんな生易しいもので、実際は犯罪に手を染め、殺人まで犯していたのだから、それを聞いたらきっとレイは卒倒しただろう。
ルックは何も言わないことを決めた。