焦れ恋オフィス
切ない気持ちをぐっと堪えて、夏基の住むマンションを出た。

そして、タクシーに乗り込んだ瞬間に、涙が溢れてきた。

「大学病院まで、お願いします」

行き先を告げる声も震えている。

バックミラー越しに視線を私に向ける運転手さんだけど、私のような乗客には慣れているのか何も聞かれなかった。

そっと座席に体を預けて目を閉じる。

夏基の前で見せる笑顔の数だけ、一人になると涙が溢れる。

こんなに好きで好きで。

側にいられるだけで幸せ。

『芽依』って呼ばれるだけで心が温かくなる。

抱かれると、生きている事を感謝したくなる。

夏基を心から愛しているけれど。

もうすぐ夏基から離れて、私は一人になってしまう。

それは自分で決めた事だけど、悲しいし寂しいし、不安だ。

こんなに弱いのに、私はちゃんとママになれるのかな?

まだ全然変化のないお腹の中の赤ちゃん。

私と夏基の赤ちゃんが私の中で育っている事だけで、今はどうにか生きていられる。

夏基と離れて一人になっても、この子がいるから頑張れる。

そう覚悟を決めたのは、間違いなく自分だけれど、やっぱり。

一人は寂しいから、早く赤ちゃんに会いたい。
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