言霊師
―――そんな些細な事に悩んで、あたふたしていられる時間が、実はとても幸せな時だったなんて、

その時は全く知らなかったのだけれど。



―――ヒョウリが悩んでいる頃のキャンパスでは、無事出会えた二人がベンチで談笑中だった。

時計台に格好いい男性が居れば、聞き付けて見学に来る人もいる。その人達の話し声や、一言主に声をかけようと張り切る女子が、ムメの存在に落胆する声。

取るに足らないそんな言葉に紛れ、時計台の二人を見る尋常ではない視線があった。

ムメも一言主も、それに気付いている。

ムメは、漠然と気味が悪いと感じていたが、一言主は正体を見抜いていた。


「そういえば、そなたは会った事があるか…?」


「誰にですか?」


「“遣い”に。」

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