言霊師
ところが、一言主はスッと立ち上がり、何処か場所を移そうとだけ告げた。


「まぁ、今は気にする必要はない。」


「しかし…」


「私の正体に気付き、警戒して様子を伺っているだけだ。…何か仕掛けるようならば、私が―――」


ムメには、構内の誰が言霊遣いなのか分からなかったが、鋭い視線で射抜かれた相手が言葉の続きを察し、自分達を見るのをやめたのは分かった。


“私が―――



―――始末する。”



見た事のない程冷たくて鋭利な目をした一言主は、まだ相手を睨んだままだ。
声をかけられないでいるムメが、自分も立ち上がろうと腰を浮かせた、まさにその時。


「―――……!」



何か、とてつもなく凶悪な言霊が吐き出されたのを聞いた。
< 113 / 235 >

この作品をシェア

pagetop