言霊師
―――ゆっくりと、景色も誰かの悲鳴も、何もかもが、スローモーションになった気がした。


「……ぇ?」


明らかに自分に向かって倒れてくる、時計。
ギシギシと音を立てて背後から倒れて来る背の高いそれを見上げた時には、もう目の前に時計の柱があった。


……あぁ。言霊遣いが、私に向かって『潰れろ』って言ったのか。


焦りはないが、急すぎて体が動かない。
身を守る為の言霊を作る事すらかなわない。



こんな時でも、貴方は私の名を呼んではくれないんですよね…?


呼ぶ事が出来ないんですよね…?


こんなに、近くにいるのに…

こんなにも、貴方を……


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