言霊師
「……ふ…ッ…」


ポロポロと、暖かい滴が一言主の胸元に染み込んでいく。

どんなに想っていても、たった一言の“好き”という言葉を伝える事すら叶わない。

伝えたくても、気持ちを言葉にしてしまえばきっと、彼に迷惑がかかるから。


二人の間にある壁は、あまりにも高すぎて。

自分がどう足掻いても越えられないのは分かっていたのに、錯覚してしまう。


このままずっと、二人で―――


二人で、生きていけるのではないか、と。
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