言霊師
――――――
朝が来なければ良かったのに。
…心からそう願うのなんて、初めてだ。
文化祭初日の朝、まだ太陽が昇りきっていない空を眺めながら、ヒョウリは一人呟いた。
「一言主、大丈夫かな?幾ら僕が言霊を翔ばしても、届く前に彼奴に捕まっちゃうんだろうけど…ね?」
何かを察したのか、ヒョウリの部屋に居た言霊達が彼の周りに集まっている。それらに相槌を求める彼は、柔らかな声音を裏切る、険しい表情を晒していた。
「…もう二度と、奪われたくないんだ…目の前の大事な物を。
特に、慎には。」
目の前で散った花の事を思い出すと、今でも哀しすぎて息が苦しくなる。
だから、本当は慎に会いたくない。
彼の性格から言って、傷痕を抉られるのは目に見えているから。