言霊師
それでも、過去の縛は、解こうと思えば解けるのだ。

自分は、ムメのように血の誓いに縛られているわけではないし、勇次のように監視下にあるわけでもない。
それに、一言主のように様々な柵があるわけでもない。

彼らに比べたら、自分は自由に動けるのだから。


昔―――とは言っても十数年程しか前ではないが、その時に慎との間で起きた事。それだけが自分を過去に縛りつける鎖。

断ち切るならば、今しかない。


「皆。僕が帰って来れたら…出迎え、宜しく頼むよ。

待っててね。言霊達。」



振り返ること無く大学へと出掛けていったヒョウリの背中を、部屋に居る言霊達はずっと、ずっと、姿が見えなくなればその気配を、いつまでも見つめ続けていた。
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