言霊師

「貴女はそこに居て下さい…」


ヒョウリが掛けたのは、対象がある言葉を発した瞬間に発動する、縛りの術だった。
故にムメは、ヒョウリが指定した場所から出られないはず。

だが指定したとは言え、実は彼は、その場所がはっきりと分かるわけではなかった。
“一言主の神と最後に会っていた場所”
そこに彼女を閉じ込めるように指定した為、ヒョウリには分からない場所なのだ。

上手く術が効いている事を願いつつ、ゆっくりと息を吐き出す。

勇次が来ない。それは予測出来ていた事だ。恐らく、無事に待ち合わせ場所に来る確率の方が少ないと予想はしていた。

けれど流石に、


「全く…ここまで“遣い”が多いと、笑えるよ。」


今の自分の状況は予想を超えていた。


「勇次を迎えにいかなきゃならないのに…面倒だなぁ。」


ヒョウリが散らした“目”が捉えたのは、示し合わせたように屋台のあちらこちらから駐車場に向い始めた十数人の姿だった。
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