言霊師
「貴方、何なの?ただの言霊師じゃないんでしょ?
陰陽術は使うし、一言主様だって…って、そんなのはどうでも良いわ。
…あのねぇ、勝手に私を戦線離脱させないでくれる!?しかも、“本物”って何よ!」


「す…すいません」


「謝って欲しいんじゃないわよ…!」


「!?」


ヒョウリの独り言など完璧に無視し、矢継ぎ早に問い詰めつつ近寄って来たムメに胸ぐらを掴まれ狼狽する。が、


「一人じゃないでしょ?ヒョウリ。私も勇次も、一言主様も、貴方と一緒に戦うんでしょ?」


そんな様子は見せなかったが、ムメを助ける際に慌てた為だろう。僅かに汗をかいている額を、指で弾かれる。
目を丸くした彼を、からかいがいがあると思った事はさておき、ムメは、地面に伏す神にその姿を確かめるように触れた。


「…彼は、戻ったのね?」


「はい」


「ありがとう。私も…一言主様も助けてくれて。

貴方が何なのかなんて、興味ない。だって関係ないでしょ?今さら、よ。
たとえ貴方が人じゃなくても、私はヒョウリを信じてるわ。」


「…僕は一応、人ですが…」


「そ?」


「そうです。」


自分がどんな運命を背負っていようとも、“興味ない”。その一言が消えずに空を漂うのを眺めながら、ヒョウリは微笑んでいた。近頃心から笑う事がなかった彼にとって、それはとても久しぶりの事のように感じた。
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