言霊師

「名前は?」


「……ヒョウリです。」


名乗ってから、しまった、と思った。

名前は、言霊師にとって武器にも弱点にもなる、大事な“呪物”のようなもの。

なのに、相手の名を聞く前に名乗ってしまった。

一度放った言葉は、戻せない。自らの名が言霊になって頭上に佇んでいるのを、消す事などできない。


「私は、ムメ。」


間を置かずに彼女―――ムメが名乗らなかったら、ヒョウリはパニックになったかもしれない。

< 45 / 235 >

この作品をシェア

pagetop