言霊師
それから5年後。
彼は仕事中に負った傷が元で、黄泉の国へと旅立ってしまう。


最期に、言霊を込めた手紙をムメに遺して。


「本当に、莫迦みたいに優しい人でした。
この役に就く以上、自分は絶対に早く死ぬ。だから、その時に私が悲しまないように、わざと距離を置いていた。
…バレバレでしたけどね。」


兄は表面上は冷たかったけれど、ムメが好きな花を庭で育ててくれていたのも、うたた寝した時に布団を掛けてくれたのも、
こっそりとムメの為に何かしてくれたのは全て兄だった。

それに気付いたのは、13歳の時。自分の為に兄が仕事を請け負った時だった。
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