恋・したい
シュッシュッと鉛筆の走る音を何回聞いただろう。何度も何度も私を描く由宇の目は真剣そのものだ。

「ソファに寝そべってみてくれない?」

胸を隠しながらゆっくりと横になる。

「左手を胸下に、右手は頬の下。髪は腰あたりに持ってきて」

鉛筆を代えながらポーズ指導。一言も喋らず従う。
絵を描く時の由宇がかっこよくて、熱くて素敵。ほんとに好きなんだね。こんなに熱中してるんだもん。
…私は由宇みたいに教師という仕事に熱中してるのかな?最近嫌々やってる気がするよ。自分で選んだ道なのにね。

「表情曇ったよ。ちゃんと集中して」
『はい』

私を真っ直ぐ見据えて視線をスケッチブックに落とした。
シュッシュッシュッ。
暖房をつけたせいか少し暑い。由宇の視線も熱い。
細かい動き、緊張感、動けないもどかしさ。

「あ…、今日はこれくらいにしよっか」

鉛筆を置きスケッチブックを閉じ、服を放り投げて寄越した。

『さんきゅ』

いそいそと着替えトイレへ。我慢の限界だったんだ―!!
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