准教授 高野先生の恋人
私はクマさんのシートベルトを速やかに外し、よいしょと両腕いっぱいで持ち上げた。
抱えると、すっかり目を前を塞がれて、前方も足元も、心もとなくて仕方ない。
「あーあーあー、僕が連れて行くって」
「でも、車が・・・」
「ちょっとなら平気だよ。一瞬、ねっ?」
暗がりの中、鍵を握り締めて小走りする女と、大きなクマを抱える男・・・アヤシイ。
クマさんにお留守番をお願いして、私と彼は本日の目的地へ出かけることにした。
「あのお店、予約してくれたの?」
「うん。君と初めて一緒にご飯食べに行った日以来だな、あの店に行くのは」
「なんかちょっと懐かしいね」
「ほんとだね」
初めて二人でご飯を食べに行った、こぢんまりした家庭的なフレンチレストラン。
もっとも、あの時はまだ、ぜんぜん彼氏彼女じゃなかったけれど。