准教授 高野先生の恋人
彼はポケットからじゃらりと鍵を取り出して、ドアの鍵をガチャリと開けた。
「今朝は渋滞があって時間ギリギリで。車を降りてそのまま教室へ直行でした」
「なるほど、それで……」
いろいろな疑問は一気に解決した。
教室に入ってきたときのあの慌てた感じも、行先表示器が“帰宅”になっていたことも。
ブラインドが閉まったままの薄暗い室内。
彼は電気をつけるより先に部屋の奥の机に向かいPCの電源をさくっと入れた。
私は以前に聞いた危機管理と自己防衛の話を思い出し、わざと彼にたずねてみた。
「ドア、開けておきましょうか?」
「そうですねぇ……」
何か思案するような口ぶりで話ながら、私のほうへ彼がずんずん近づいてくる。
「ドアは、いいでしょう」
「そう、ですか……」
彼の手でドアはしっかり閉められて、そしておまけに鍵まできっちりかけられた。
ドアの外につけられてある行先表示器は、確かまだ“帰宅”を差したままだった。