准教授 高野先生の恋人

ふと、掲示板の前で桜庭さんが足をとめる。

美術館のB2サイズのポスターが目に入る。

「ボク、この建築家好きなんだよねぇ」

「今やってるんですよね、展覧会」

その現代建築の展覧会がA市の美術館で開催されていることは私も知っていた。

だって、寛行さんから一緒に行かないかと誘われていたから。

まだいつとは具体的に決めてなかったけど、絶対行こうねって返事はしていた。

「鈴木サンも興味あるの?こういうの」

「嫌いじゃないですよ、ぜんぜん」

私は美術にまったく明るくないのだけど、絵画よりは興味があって好きだと思った。

「桜庭さんは詳しそうですもんね」

「まあ、環境が環境だったから自然に」

お母様が装丁家だもの。きっと普通に芸術に触れて育ってきたに違いない。

私の家はぜんぜん普通だったけど、お母さんが美術館には連れて行ってくれたっけ。

「美術館っていいですよね、なんか」

「そう?君もそう思う???」

「ええ、思いますよ」

私がそう答えると、桜庭さんはなんだかえらく嬉しそうな笑顔になった。

このとき、鈍感な私はちっとも気づいていなかったのだ。

彼のとびきりの笑顔の理由も、その弾むような心の音色にも……。


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