恐怖 DUSTER
「そしたらね、お父さん私の叫び声に反応して人が燃えている車から逃げようとハンドルを反対にきってしまったの・・・千恵が立っていたほうに・・・」


里美の言葉に、千恵が小さな声で否定した。

「・・・立ってたんじゃないよ・・・前に進んでしまったのよ・・・そのせいで里見の家族の車の前に・・・」


里美は、不断出さない強い口調で千恵に言った。


「違うの!千恵のせいじゃないの!・・・私が・・・私が叫ばなければ、お父さんも車のハンドルを千恵のいるほうにきったりしなかったのよ!」


「千恵のせいじゃない!」


「私のせい!私がお父さんも、お母さんも、お姉ちゃんも殺してしまったのよ!」


「私が叫ばなければ・・・」



弥生は二人の会話から、千恵と里美は同じ苦しみに心を痛め続けている事を知った。


「どちらのせいでも無いのよ・・・」


麻美は二人を制すように言いながら、視線を弥生に向けて、千恵と里美の苦しみを理解できたのか確認するような視線で見つめた。


弥生は麻美の視線を感じ、無言でうなずき自分の心情を無言で麻美に伝えた。


麻美は安堵したように微笑み、再び里美の事を話し始めた。


「里美は、悲しみの記憶を持ったまま眠り続けたのよ」


「でも、眠り続けながらも、あの事故の記憶を夢として見続けていたの・・・」


「入れ替わった新しい心の里美は、事故の記憶も無くなんの苦しみも無く暮らしていたわ」


麻美の言葉に、千恵と里美の表情が強張る。


「だから私は、千恵の苦しみを調べて里美を見つけ出してから思いついたの」


「里美が見続けている悪夢を、新しい心の里美に見せれないかとね」


「それからは、なるべく前の千恵と里美を一緒に行動するように仕向けたわ」



弥生は、前の自分の記憶を呼び起こし、麻美の行動を思い出してみた。




・・・たしかに、麻美はやたらと千恵と里美を仲良くさせようとしていた・・・




< 101 / 190 >

この作品をシェア

pagetop