恐怖 DUSTER
「弥生、千恵の入れ替わりは理解できたよね?」


「えっ!う、うん・・・ちゃんと理解できたよ」



麻美は弥生の心を見据えるような瞳を向けている。


「本当に大丈夫?」


「だ、大丈夫よ。千恵の悲しみも辛さも怒りも理解できたから」

「それならいいんだけど・・・」



麻美の指摘に弥生は戸惑った。千恵の悲しみ辛さ怒りは理解できたけど、いまひとつ理解できずにいる事がある・・・


・・・千恵だけでなく、麻美も含めて・・・


・・・憎しみ・・・?


弥生は、この感情だけが理解できずにいた?



・・・たしかに、自分に取って代わってあの暗闇の場所に閉じ込めた前の自分に怒りと憎しみは感じていたが、入れ替わってから前の自分の記憶を吸収した後には、自分の感情の中に怒りも憎しみも存在していない・・・?



むしろ入れ替わられて消滅させられた前の弥生に、同情する感情のほうが強くなっていく。


・・・なぜ麻美と千恵は、怒りと憎しみを持続させていられるのだろうか・・・?



・・・仲間内では一番穏やかな里美もそうなのだろうか・・・?




弥生は里美を見つめながら、疑問の渦に飲み込まれていくような感情に救いを求めた。


弥生が自分を見つめる視線を感じ取った里美が千恵の背中に隠れる。


その里美を目で追いかけていく弥生を見て、麻美は里美の事を話し始めた。


「弥生、里美が眠り続けていた事は話したよね」

「えっ!あ、うん聞いたよ」

弥生は一瞬、自分が考えていた疑念を麻美に悟られたのかと思い驚いたが、麻美の言葉が里美の事であったので安堵した。


「弥生、ちゃんと聞いてよ?」


麻美は、時々話を上の空で聞いている事がある弥生に不安を感じていた。



・・・まさか、前の弥生が残っているなんてことは無いと思うけど・・・




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