海に花、空に指先、地に霞
凪、と親しげに名前を呼んで。
振り返ると…声の通り、華やかな女性が、いた。
緩やかに巻いた髪を揺らす…キレイな人。
今度は凪世の方を振り返ると……声の主を認識したのか、ちょっとだけバツの悪そうな顔をしていた。
私は盛大に戸惑った。
だって…ここに、地上に。
凪世の知り合いがいるなんて思ってなかったから。
でも…天鳥が前に言っていた台詞が蘇った。
「地上に囲ってる女がいる」って。
いまだ戸惑ったままの私に、お構いなく、彼女は笑顔で歩み寄ってきて、凪世に絡み付く。
…あっさり、私を通り越して。
甘い声で、なんでレンラクくれないの、ケータイ教えて、とか。
女性に絡み付かれたままの凪世が、仕方なさそうにひとつため息を落として。でもいつものように穏やかに、笑った。
「…ごめん、誰だっけ?」
…穏やかで、やさしい声。でもすごく…冷たく。
浮かれた彼女の熱を冷ますには、十分なほど。
「……え?凪?」
「…覚えてない。ごめんね」
笑顔のままそういって、彼女の手を振りほどき、私のほうへ、向かう。
スルリと…私も冷えた。多分、彼女と同じくらい。
「行こ、沙杏ちゃん」
「な、凪世…っ?」
「…いいから」
有無を言わさず、再び手を絡められて、引っ張られる。
背後から、甲高い怒声が届いた。