海に花、空に指先、地に霞
「あのね、沙杏ちゃん。…さっきのこと、本当に気にしなくていいから」
海をじっと眺めていると、横から静かな声がかかった。
私はさっきから、全然口を開いていない。ようやく俯きながら、答える。
潮風が二人の間を通り抜ける。髪をばさばさに跳ね上げて。
「……もう、してない」
「…嘘つきだね。歩いてるとき、ずっと怒ってたくせに」
キュ、と口唇をきつく結んで。
「………いつも、そうなの?」
「そうって?」
「…い、1回きり、とか!…さっきもすごく冷たかった!」
「…ん、まぁ…」
凪世は…本当に気にしていない様子だった。
……分かった。
凪世は…。
やさしく美しい海の王は。
多分、本当に分け隔てなく。
誰にも…何にも深く執着しないんだ。
だから、あんなに平然としていられる。
多分、彼の中はラインがあって。……強固なラインが。
それを踏み込えようとするのを嫌うんだろう。
そのラインの外は、全て一定。
何だか…唐突に理解した。それは確信にも似ていた。
………とても淋しい気がした。