ユピテルの神話
その手は、
少しも動きません。
「…姉ちゃ…」
「……ぁ…ぁ…」
僕は信じられなくて、
未だエマを失った事を認めたくはなくて、瓦礫を退かす手を止める事は出来ませんでした。
「…嫌……嫌です!嫌です!」
村に僕の声だけが響きます。
気が付けば…、
もう埋まった人々は助からないと、皆が諦めていたのです。
それでも僕は手を止める事は出来ず、安らかなエマの顔が見えた時…
初めて、
異変に気が付きました。
「……エマ…?」
これだけの瓦礫に下敷きになろうと、エマの顔には傷一つ、汚れ一つも無かったのです。
「――…ぇ?」
それは顔のみならず、
注意深くよくよく見れば、体のどこを見ても同じでした。
衝撃を受けた痕もなく、綺麗なままなのです。
白く透き通る様な彼女の肌が、
冷静になれば何かに染められているようにも見えました。
「……これは…?」
エマの体は、
柔らかな光に覆われて守られていました。
それは微かに、
静かにひっそりと…
――七色の光。
「……ユラ様の…力?ユラ様が守ってくれたの…?」
弟が、僕の隣でそう声をあげました。