ユピテルの神話
「……ぇ?」
僕は何もしていません。
しかし、
エマは穏やかに、目の前でしっかりと、息をしています。
「…姉ちゃん、生きてる!ユラ様の光が守ってくれたんだ!!」
弟が興奮気味に声を張り上げると、様子を伺っていた村人たちの表情にも光が射します。
『もしかしたら!』
『いいや、きっと!』
そんな期待を胸に、村人たちがそれぞれの瓦礫を退かし始めたのでした。
「……僕…?」
僕ノ…、光…?
身に覚えはありません。
しかし、そんな疑問を突き詰める余裕もなく、ただエマが助かった事に僕は歓喜していたのです。
瓦礫に埋まったはずの村人。
全員がエマと同じ状況で助かっていたと聞きました。
この惨事で命を落とした者が居ないと分かって、僕とロマは心から安堵したのです。
高熱で眠る人々。
あとは、彼らが無事に目を覚ます事を願うばかりでした。
エマ…
今まで通りに元気になって…
また、
僕に笑い掛けてくれる日は来るのでしょうか…。
その願いは叶いました。
彼女は僕に笑い掛けてくれました。
しかし、
全てが『今まで通り』ではなかったのです。