七罪巡り
「おい、手、止まってる」
「…あぁ、悪い」
何か平らな物で後頭部を叩かれて、考えにふけっていたことに気付いた。振り返ると椅子に座っている俺に対して上から見下ろしてくるタキ。
手に持っていたのは調査内容をまとめた薄いファイルだった。
「ぼーっとして、何か気付いたか?」
明らかに嫌味だ。
「だめだ、共通点なんて見つからない。」
「もっと死ぬ気でやれよ」
言われて机の上に置かれたパソコンの画面を見ると、表に打ち込まれた文字や数字。それは今回タキが殺した暴走者の情報で、平然と見られる彼はさすがだと思う。
「なんなら死体の写真も入れるか?」
「いや…勘弁してくれ」
死体の写真なんて医者・警察関係者かそういう趣味の人しか好んで見ないだろう。
残念ながら俺はそういう趣味の持ち主ではない。
「でも死体見なきゃわかんねえこともあんだろ?」
「…でも俺には無理だ」
しばらくタキから見下ろされるという慣れない状態が続いて、俺の顔をじっと見ていたタキがため息をついた。こっちだってため息のひとつもつきたいくらいだけれど、何も新しい情報を見つけられなかった俺がしていいことではないと思い飲み込んだ。
ふと病院の一室であるここで昼間から、仮にも医師がこんな話をしていていいのかと不安になる。
「行くぞ」
「行くってどこに「狩り」
「・・・感染者狩り。」
くるくると器用に回していたメスを丁寧にケースにしまって、タキは白衣を脱いだ。着替えるから玄関で待ってろと言い残して、バタンと閉まるドア。
「白昼堂々狩りだって?」
あの自由すぎる思考に嫌気がさす。
かといってそれを止められる自分ではないから、おとなしく情報を見つけて散らかっていたコピー用紙にメモをして立ち上がった。
ナースステーションの横を通り過ぎると中から声をかけられて立ち止まる。この病院の看護士で俺に話かけてくる人といえば、あの人しかいない。