さよならの十秒前
確かに坂井奈緒は3年D組のクラスメートだ。

でも、私は彼女と会ったことは一度しかないし、どんな子かなんて全く知らない。

そんな彼女のことを、見ず知らずの怪しい男と一緒に調べる義務は、ないと思う。

思うけれど。

「どうかな?」

男が私の顔をもう一度覗き込んだ。

彼の口元は優しく微笑んでいたけれど、瞳の奥は謎めいた光に満ちていて、表情は読み取れない。

私は反射的に、こくりと頷いた。
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