さよならの十秒前
男の言葉に、私は少し苛立った。

仮にも人が亡くなったことを悼む場であるお通夜で、こんなおちゃらけた男はロクなものではない。

無視しようとそっぽを向くと、男は私の前に回り込み、顔を覗き込んだ。

「ねぇってば」

「…何なんですか」

男の漆黒の瞳が、私をまっすぐに捉えていた。

「奈緒はさ、本当に病死かな?」
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