さよならの十秒前
そんなことはありえない、と思う。

だって今日、こうやって彼女のお通夜が行われているのだ。

茶髪男は続ける。

「おかしいだろ?奈緒は死んだのに、奈緒の携帯からメールが来るんだ」

「うーん…」

誰かが、坂井奈緒のフリをしている?

「そうしたら僕、聞いたんだ。奈緒のご両親に」

「何を?」

「奈緒の携帯が、奈緒が死んだ日から見当たらないそうだ」



つまり、それは。

「…誰かが、坂井奈緒の携帯を盗んで、君にメールしてる、ってこと?」

「そういうこと」

男は手にしていた携帯をパタンと閉じた。

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