さよならの十秒前
そんなことをする意味はわからない。

ただ、亡くなった人の名前を騙るなんて趣味が悪い。

しかもその名前でメールする、なんて。

「奈緒が死んだ日、誰かが彼女の病室にいた」

男は遠くに見える遺影に向けて、視線を漂わせた。

「そいつは奈緒の携帯を盗み、おそらく奈緒が死んだときすぐ傍にいたはずだ」

「何のために?」

わからない、と男は首を振る。

そして私に視線を戻した。

「奈緒の死の真相を、島井さん、一緒に調べてくれないかな」

私が?

私は突拍子もない発言をした目の前の男を、驚いて見つめ返した。
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