さうす・りばてぃー
「おーい、見由。お茶持ってないか?」

「え? あ、うん。リュックに入ってますけど」

 見由の声はまだ普通だったが、目が半目で、俺に辛いと訴えているようだった。

「飲ましてもらっていいか?」

「はい、いいですよ」

 見由は立ち止まると、リュックを下ろし、中から大きな魔法瓶を取り出した。

 こんなもん持ってちゃ、そりゃ重いわけだ。
 
 俺はそれを水筒のふたに一杯だけ注ぎ、一気に飲み干した。

 そして、水筒をリュックに入れると、そのままリュックごと担ぎ上げる。

「あっ」
 リュックを追って、視線を走らせる見由。

「また飲みたくなったときにすぐ飲みたいから、水筒借りるわ。代わりに俺のリュック持ってて」

 俺はそう言って、すたすたと歩き出した。

 俺のリュックは、着替え以外ほとんど何も入っていないので、きわめて軽い。

 今の見由でも大丈夫だろう。

「わがままですね、お兄ちゃんは」

 そう言って、くすりと笑う見由。俺の意図を察していたのかどうか、鈍感な俺にはわからなかった。

 しばらくすると、見由の歩くスピードが上がった。

 代わりに、俺のスピードが落ちる。

 まったく、女の子の荷物というのはなんでこんなに重いんだろう。

 一人離れて最後方を進む俺。そんな俺に、穂波が近づいてきた。

「ゆうくん、ありがとう」
 穂波は長い髪を揺らしながら、俺にそう言った。

「別に穂波に礼を言われるようなことはしてないぞ」

「そうだね。でも、ありがと」
 そう言って笑う穂波。

 なんだかちょっとくすぐったかった。

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