魑魅魍魎の菊
俺達が居るのは、町内のとある住宅街。
そこは——"鬼門"こと東北である。例の《百鬼夜行》は鬼門から現れ、徘徊する方向は毎回違うらしいのだ。
「若、お怪我をなさらないように」
「お春様が哀しまれる」
鏡子と白が不安気に眉を下げながら言う。俺は小さく、呆れたように笑った。
「春姉が泣いたら、千影が発狂しかねないな」
「それが嫌でしたら怪我なんかしないで下さい」
白も俺につられるように笑って、鏡子の手を握った。離さないように、逸れないように。
格好良いぞ白。だが、茶々を入れたらキレるだろうな。
と、その瞬間だった。
夜の闇を舞うように、一匹の蝶が正影の目の前に飛んで来た。ひらひらというより、ゆらゆらという表現が相応しい動きをしている。
虫なのに何故か艶がある。
「——鏡子、白。時間だ」
いよいよ百鬼夜行が始まる。