魑魅魍魎の菊
俺は白い腕当てをし、懐から札を取り出す。
「よく聞け、おめー等。人間を何人たりとも入れるな、的確に《百鬼夜行》を結界の中に入れる!」
先ほど飛んで来た蝶は俺の式神で妖怪達と通信をするために用意した。
そして、遠くから木霊する「御意」という言葉。正影は腰に下げていた小刀をアスファルトに突き刺したのだ。
「——我、光を統べる玖珂正影。光の名の下に、この地に"鳳凰の力"を解き放つ!!!」
アスファルトに突き刺さった小刀、名を「鳳(おおとり)」から溢れんばかりの炎が立ち上る。
鏡子は赤い着物を着衣し、陽炎の向こうで薄く微笑んでいる姿に誰よりも妖怪に見えてままならないと感じた。
(本能的に告げられる——この人は人間なんかじゃ、収まりきれない器をお持ちだ)
そして、地獄に咲く一輪の花のようだ。
「若殿、たった今"空狐の空"から報告がありました」
「何だ白」
「無事に結界が張られ、百鬼夜行の笛の音が聞こえたと」
とうとう始まった百鬼夜行。——もう、後戻りは出来ない。
この地を荒らす輩はこの俺が直々に制裁を下してやる。そして、どんどん押し寄せて来る強大な「妖気」。
人間の体を持った俺におどろおどろしいモノが体を駆け巡る。千影より上の妖怪が頭であろう。
「そろそろ呪文を唱えた方が良い頃です若」
《百鬼夜行》、それは人間が遭遇してしまえば死んでしまうというものだ。俺は生憎人間だ。
出遭えば元も子もない。夜が濃い、この立ちこめる炎が俺の最後の砦。
「カタシハヤ、エカセニクリニ、タメルサケ、テエヒ、アシエヒ、ワレシコニケリ」
諦めるな、目の前に立ちはだかる壁を打ち壊せ。
超えられないのなら、壊すだけ。