魑魅魍魎の菊
「そんなに震えなくて大丈夫だよ?菊花ちゃん、どうやら状況が少し変わった」
「えっ…?どういうこと、やっち」
そして夜行は鏡子に歩み寄りながら、苦笑にも似た笑いを落とす。ビクっと体を震わす鏡子なのだが、「何もしないから大丈夫だよ」と人の良さそうに言う夜行。
「一体、鏡子が何をするんだよ…」
「それは全て俺から説明させてもらうよ《玖珂の若頭》。この《鏡の付喪神》はね、そう遠くない未来——そうさね、二週間後ぐらいに重大な罪を犯すんだよ」
「……信憑性は」
獣のように深く唸る正影。自分の家族がこんな事を言われて耐えられる奴がいるなら教えて欲しい。
「俺は来世からやって来る妖怪だよ?言わば未来から来た存在、信憑性が無いとかじゃなくて"実際に見たから"ね」
「"見た"だと?!」
「落ち着きなって、だから状況が変わったって言っただろ?」
夜行はアスファルトの上に胡座で座りながら正影を見つめる。互いに逸らせれない視線。
「——契りを交わした妖怪が主を殺してしまう大罪、知ってる?」
"主人殺し"
知らぬものは居ない《主人殺し》。それはこの「目に見えないもの」達の世界は大罪であるのだ。
主人を殺すのは恩で仇を返すのと一緒で、主人が悪い場合なら主人は地獄巡りの刑になってしまうらしい。
それを審判するのは地獄の審判達なので選考基準なんて知らない。だが俺には、「目に見えないもの」を地獄に送る権利を持っている…
「…それが一体、どうしたんだ」
嫌な汗が背中に流れる。
「鏡子がするっつうのか?馬鹿馬鹿しい…」
「それがあったんだよね、彼女に」
へらりと言いのけるコイツを殴りたかった。