破天コウ!
 こんなエピソードがある。

 それは昨年の、浪人生活が始まって約一か月が経過した頃。

 おれは毎朝、沢山の会社員なんかに紛れて、春の陽光を浴びながら大阪のど真ん中にある予備校へと向けて清々しく地上を闊歩していたのである。

 あ、いや、『清々しく』というのは取り消しておく。お前のその面でよく清々しくなどと言えるよなという苦情が津波の如く押し寄せるのを未然に防ぐ為である。

 まあとにかくだがしかし、初夏に差し掛かり、都会独特の暑さの中で既に挫折しそうであったおれは、予備校の教室において驚愕の事実をたまたま耳にした。

 おれの席の後ろに座っていた者たちが、確かにこう言ったのだ。駅から予備校に至るまでの道のりの、約半分の距離は地下通路を利用して進むことが出来る、と。

 激震が走った。おれは自分を責めた。『地下通路』などという、如何にも悪の秘密組織が使っていそうな、怪しげな香りがする素晴らしいもののこれ程までに近くにいながら、その存在にさっぱり気付かなかった自分を張り倒してやりたかった。

 突然に後ろを振り向き、その地下通路にはどうやって入るのと目を輝かせながら聞いたおれを、彼らは変なものでも見るかのような目で見て、何とはなしに地下通路への入口を教えてくれた。
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