そこから先は
        *



あたしは最後まであの人の顔を見なかった。



後悔はしていない。



だって、あの人はあたしにとっては幻みたいなものだったんだから。



幻はいつか消える―



だったら、初めから見ない方が消えてしまっても寂しくない。



……でも本当は、幻だなんて思いたくないんだ。



あの人はちゃんといたんだもん。



矛盾してるのかもしれないけど、あたしはあの人の声を聞いたし、手にも触れた。



なのに何もみていない。



だから、つまりあたしは………



確実に存在している幻に恋をした。



不思議だね。



「小春、大丈夫か?」



駆が心配そうに声を掛けてきた。



あたしは、まだ目をつむったまま大きく頷いた。



「駆…」


「何?」
















「あの人………もういない?」
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